Kenny Garrett (sax)
Woody Shaw (trumpet)
Mulgrew Miller (piano)
Nat Reeves (bass)
Tony Reedus (drums)
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こんにちは、Daily Music 講師の山田亮です。ジャズ・ポップスのレッスンを主に担当しています。
今回はジャズスタンダードの Have You Met Miss Jones? について書いていきます。
小粋で素敵な曲です。
作曲者:Richard Rodgers
作詞:Lorenz Hart
この2人のコンビはたくさんのミュージカルナンバーを作りました。その中でも以下の曲たちはジャズスタンダードとしてもたくさん演奏されています。
・Blue Moon
・My Romance
・My Funny Valentine
・Falling In Love With Love
・Bewitched
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Have You Met Miss Jones? も主要なジャズシンガーのほとんどが演奏を録音しています。もちろん多くの楽器の演奏者も録音しています。以下はジャズミュージシャンによる Have You Met Miss Jones? の演奏の例です。
Benny Goodman with Teddy Wilson and Gene Krupa (1937)
Stan Getz (1953)
Art Tatum (1953)
Bing Crosby (1956)
Frank Sinatra (1961)
McCoy Tyner (1963)
Ahmad Jamal (1969)
Joe Pass (1973)
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「ブリジット・ジョーンズの日記」という2001年にヒットしたロマンティックコメディ映画でも Have You Met Miss Jones? は使われました。主人公の姓がジョーンズなのでこの曲が選ばれたのだと思います。この映画のサウンドトラックでは、Robbie Williams という歌手によって歌われています。
Robbie Williams (vocal)
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この曲は "I'd Rather Be Right" というミュージカルのために1937年に作られた曲です。このミュージカルはワシントンの政治を風刺したもので、記録的なヒットとなりました。主人公は婚約中で一刻も早く結婚したいのですが政治が上手くいっていないせいでお金がなく結婚できない、となっています。この曲はこのミュージカルの中の唯一のバラードで、主人公たち婚約中のカップルが歌います。
Tony Bennett (vocal)
歌詞は以下のような感じです。
自分なりの簡単な訳も書いてみます。
(Verse)
It happened, I felt it happen
それは起こったんだ、それが起こるのを感じた
I was awake, I wasn't blind
目を覚ましていたし、盲目でもなかった
I didn't think I felt it happen
それが起こるのを感じるとは思っていなかった
Now I believe in matter over mind
今、僕は精神より物質を信じる
And now you see we mustn't wait
そして今、僕達はもう待てないのだと君は分かったはず
The nearest moment that we marry is too late
どれだけ早く僕たちが結婚したとしても、それでも遅すぎる
(Chorus)
"Have you met Miss Jones?"
「ジョーンズさんにお会いになったことはありますか?」
Someone said as we shook hands
僕達が握手をした時に誰かが言った
She was just Miss Jones to me
彼女は僕にとってただの「ジョーンズさん」だった
And then I said, "Miss Jones
それから僕はこう言った。「ジョーンズさん、
You're a girl who understands
あなたは理解している女性です
I'm a man who must be free."
僕が自由でいなければいけないと」
And all at once I lost my breath
そして一気に僕は息が出来なくなり
And all at once was scared to death
そして一気に死ぬのが怖くなり
And all at once I owned the earth and sky
そして一気に大地と空は僕のものになった
Now I've met Miss Jones
もう今となっては、僕はジョーンズさんに会ったことがある
And we'll keep on meeting till we die
そして僕たちは死ぬまで会い続けるでしょう
Miss Jones and I
ジョーンズさんと僕
Verse では一目惚れした瞬間のことを描写しています。4行目の「僕は精神より物質を信じる」というのは少し不思議な感じがする言葉です。頭で考えるよりも自分の体に宿る恋の感覚を信じる、という意味だと思います。
タイトルの "Have You Met Miss Jones?" というのは、婚約者になる女性を初めて紹介してもらった時の「ジョーンズさんとお会いになったことはありましたか?」というセリフのことです。Miss Jones というのは丁寧な言い方なので、初めて会った時は他人だったことを示しています。初めて会った時には他人だったけど一気に恋に落ちて、一刻も早く結婚したいと思っているという情熱的な歌詞です。
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Aセクションは比較的一般的なコード進行ですが、Bセクションのコード進行の転調の仕方は独特です。この部分は1960年に発表された John Coltrane の Giant Steps のアイディアに影響を与えたとも言われています。
Giant Steps は規則的な転調がとても短い間に繰り返されていて、とても独特なコード進行です。ジャズの歴史の中で非常に重要な曲です。
以下の動画が Giant Steps です。
John Coltrane (tenor saxophone)
Tommy Flanagan (piano)
Paul Chambers (bass)
Art Taylor (drums)
Have You Met Miss Jones? のBセクションもほぼ同じような転調をしています。
この部分です。
Chet Baker (flugel horn)
George Coleman (tenor sax)
Kirk Lightsey (piano)
Herman Wright (bass)
Roy Brooks (drums)
Have You Met Miss Jones? のBセクションは以下のようなコード進行で始まります。
(Fのキーの場合)
BbM7
Abm7 Db7
GbM7
Em7 A7
DM7
2小節目と4小節目は IIm7 - V7 なので単純化すると、IIm7 を省略することが出来ます。
すると以下のようになります。
BbM7
Db7
GbM7
A7
DM7
さらにこれを半音上に移調すると以下のようになります。
BM7
D7
GM7
Bb7
EbM7
これは Giant Steps の最初のコード進行と全く同じになります。
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※Giant Steps のコード進行にあたえたものとして、1947年に出版された Nicolas Slonimsky による THESAURUS OF SCALES AND MELODIC PATTERNS の影響をあげる人もいます。
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Richard Rodgers はどこからこの転調のアイディアを得たのでしょうか?彼はクラシック音楽の伝統的な教育も受けているので、後期ロマン派のワーグナーやマーラーにおけるこのような転調について学んでいた可能性は高いです。
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比較的最近の演奏で、面白いアプローチの Have You Met Miss Jones? もあります。
Christian Sands (piano)
Nick Tucker (bass)
Kenny Phelps (drums)
2015年のアメリカン・ピアニスト・アワードという賞のファイナリストによる演奏です。
演奏の最初は Gb のペダルノート(保続音)ではじまります。ペダルノートの中でピアノが弦を手でミュートしたりしながら自由に即興をしたあと、Gbメジャーキーでメロディがはじまります。Gbメジャーキーだと、Bセクションの最後のコードは以下のようになるはずです。Gメジャーキーの IIm7 - V7 の後で Gbメジャーキーの IIm7 - V7 になります。
Am7
D7
Abm7
Db7
GbM7(ここからAセクション)
Eb7
ところが同じ場所で、この演奏では以下のようなコードにしています。
Db7
D7
GM7
F7(ここからAセクション)
E7
D7 のあとで 実際に GM7 へ解決してしまいます。そしてF7 によって E7を導き、Aセクションに入ります。AセクションはGbメジャーキーでなく、Gメジャーキーに転調されています。なので、もともと Eb7 があるはずの場所に E7 が来ています。
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